2017.08.15

【イップスの深層】
サイドスロー転向の
一二三慎太が見せた甲子園の奇跡

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

「別にサイドじゃなくても、どこからでもよかったんです。僕は指先の『バチン』という感覚がほしかった。サイドスローにしたら『バチン』ときたので、これはいけるわ! と。フォームづくりは一からやり直しやし、球種も減りましたけど、ピッチングをしているという実感は戻ってきましたね」

 オーバースロー時代はスライダー、カーブ、フォーク、チェンジアップを投げていたが、サイドスローになると球種はスライダー、ツーシームだけになった。とはいえ、ストレートがシュート回転するため、右打者のインコースに食い込むような球筋もまた、一二三の武器になる。こうして急造サイドスローとして、一二三は高校最後の夏の大会を迎えた。

 しかし、いざ試合になると一二三の投球は一進一退を繰り返した。本人も「投げてみないとわからない」と苦笑交じりに振り返るように、誰も寄せつけないボールを投げたかと思えば、突然コントロールを乱すシーンも多く見られた。そして県大会に入ってからは、もうひとつの不安が一二三を悩ませた。それはサイドスローに転向してもなお、右肩に痛みが出てきたことだ。

「肩が痛くて、大会が進むにつれてヒジの位置も徐々に下がっていきました。映像を見返してみると、自分の感覚よりも下で投げていましたね」

 投球が思うようにいかない反面、一二三の打棒は火を吹いた。打撃練習など、ほとんど何もしていないに等しかったが、とにかく勝ちたい一心だった。

「自分が打つと、野手がもっと打ってくれていたので『打ったろう!』となりましたね。バッティングはただ好きやっただけなんですけど」