無名の独立リーガーに野球人生を完全燃焼させた、井口資仁の大きな背中 (5ページ目)

  • 阿佐智●文 text by Asa Satoshi
  • photo by Kyodo News

「いろんな人にサインをいっぱい頼まれていたので、あつかましくもメールをしたんです。そしたら通用口から入れてくださって、サインにも応じてくれたんですよね。あつかましいことを頼んでおきながらも恐れ多くて......まともに話せなかったですね」

 決して気軽に声をかけられるような存在ではなかったと、矢島は言う。しかし、口数は少ないが、その背中から伝わってくるものは大きく、そして優しかった。

 その井口が、今シーズン限りでユニフォームを脱ぐことを発表した。井口の引退を耳にして、矢島はあらためて「井口さんは自分にとって特別な存在だった」と振り返った。

「一緒にトレーニングさせていただいた経験は、僕の一生のなかでもホントに貴重な時間でした」

 この言葉からは、井口という男が単にプレーで魅せるのではなく、生き様を通して多くの人に影響を与えたことがうかがえる。

 ちなみに、矢島は今でも軟式球界のトップ投手としてマウンドに立っている。マウンドに立てば、40歳になる今も、全国大会でも向かうところ敵なしである。そんな矢島に聞いてみた。「井口も一線を退くことになるが、いつか軟式で対戦したいとは思わないか」と。

「そんなことできません。またイップスになっちゃいますよ」

 井口資仁の存在感は、今も矢島の前に大きくそびえ立っている。

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