無名の独立リーガーに野球人生を完全燃焼させた、井口資仁の大きな背中 (4ページ目)

  • 阿佐智●文 text by Asa Satoshi
  • photo by Kyodo News

「今から考えると、アメリカ野球に挑戦といっても、そこからメジャーに行けるなんて思ってもいませんでした。あのシーズンは、野球をやり尽くすためにあったようなものです」

 その年のシーズンオフ、矢島は井口と再会した。自主トレのメンバーのひとりが、自身の結婚式に矢島を招待してくれたのだ。円卓のとなりの席に座っていたのは、井口だった。宴席で恐縮しながらも、矢島は井口にシーズンの報告をした。

「実は、僕もアメリカでやっていたんです」

 矢島の言葉を聞いて、井口は驚きながらもこう口を開いた。

「だったら、また自主トレに来いよ」

 しかし現役引退を決意した矢島は、その誘いを断った。ユニフォームから背広に着替え、不動産会社の社員として次のステージに進んでいたからだ。その後、井口はますます遠い存在になったが、二度ほど顔を合わせたという。

「就職した後、井口さんが契約していたスポーツメーカーの方と一緒に飲みに行く機会があったんですよ。その場所が僕の実家の近所で、それをメーカーの方に話したら、『そういえば井口さんの家もこのあたりだよ』って。それでブラブラしていたら、井口さんの家の前でばったり出くわしたんですよ。なんか気まずかったですね。家を探しているみたいに思われているんじゃないかって(笑)」

 そして昨年は、千葉にあるロッテの本拠地にも足を運んだ。いまにして思えば、「井口の雄姿を目に焼きつけておくべきだ」という虫の知らせがあったのかもしれない。

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