2017.07.24

【イップスの深層】
150キロ右腕・一二三慎太が
失った投球フォーム

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 そして、本当の地獄はここから始まった。一二三は出口の見えない迷路にはまってしまったのだ。

「センバツが終わった後も肩が痛くない投げ方を探しているうちに、ワケがわからなくなって、自分のフォームを見失ったんです。『どうやって投げてたっけ?』と考え込むようになって......」

 そしてふと、我が身にのしかかる重いものにも気づかされた。当時、高校野球の世界にいて「一二三慎太」の名前を知らぬ者はいない。メディアは「高校BIG3」「MAX150キロ右腕」などと書き立てる。しかし、本当の自分は肩に激痛を抱え、投球フォームを見失っている。それが現実だった。

「周りからのプレッシャーに『そんなん無理や』と思っていましたけど、『期待に応えなアカン』と、どこかで思っていたんでしょうね。でも、キャッチボールは普通にできていても、マウンドに立った瞬間、一気にフォームがわからなくなるんです」

 そして、一二三は認めたくない現実を直視しなければならなかった。「自分はイップスなのだ」と。

 一二三にとって、イップスは身近ながらも他人事という存在だった。高校入学当初、キャッチボールのパートナーを務めた先輩はイップスの気(け)があり、一二三は「ゴールキーパーのつもりで止めていました」と振り返る。そして同期にも打撃投手をしていて、ストライクがまったく入らなくなる選手がいた。

「最初は自分も理解できなかったので『何してんねん』と思っていました。L字ネット(打撃投手用の防球ネット)にボールが当たって、その跳ね返りが本人に当たる......みたいなシーンも見たことがあって。でも、いざ自分がイップスになってみると、気持ちがわかりました」