2017.06.30

【イップスの深層】
解雇寸前の岩本勉をエースに改造した
2人のコーチ

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kyodo News

「新しい自分の身のこなしなので、考える間(ま)がないんですよ。イップスって、『考える』ことが一番怖いことなんです。新しい自分と向き合っているので、イップスについて考える間がないんですよ」

 シーズン終了後にはウインターリーグに派遣され、小久保裕紀(元ソフトバンク)らとともに活躍。再びファイターズのホープへとのし上がっていた。

 そしてプロ6年目となる1995年、岩本は新しい投手コーチと出会う。そのコーチは、岩本に自身の腕を見せてこう言った。

「いいか、ここにハエが止まっているとしよう。今からハエ叩きでこのハエをやっつけてみろ」

 岩本が言われるがままに右手を振り上げた瞬間、コーチは「もう逃げちゃったよ」とつぶやいた。もう一度チャレンジした岩本は、モーションを取らずに素早く手を動かし、コーチの腕を払った。すると、コーチは「それだよ」と言って、こう続けた。

「それがインパクトだよ」

 このコーチこそ、広島、阪神など5球団を渡り歩いた名投手コーチ・大石清だった。大石コーチの教えに、岩本は「目からウロコがポロポロ落ちてきた」と振り返る。

「静から動。これがピッチングなんかと。それから僕のピッチングの感覚がガラッと変わった。大石コーチは『俺は上から投げろとは言わないよ。でも、ハエ叩きだと思ってやってみろ』と。インパクトを知って、ボールを前でパンと離す感覚がわかった。それで自然とスリークオーターになったんです」

 一見、軽くキャッチボールでもするかのような力感のないモーションから、流れるように腕を振って快速球を投げ込む。「ハエ叩き」にヒントを得た岩本の投球フォームは、対戦した打者から「タイミングが取りづらい」と言われるようになった。