2017.05.25

【イップスの深層】
先輩の舌打ちから始まった、
ガンちゃんの制御不能

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kyodo News

 研究者や指導者のなかには、イップスのことを「技術的な問題」と語る人間もいれば、「心因性のもの」と語る人間もいる。いずれにしても、はっきりとした原因は解明されていない。たとえイップスの気(け)があったとしても、引退するまで公言したくないという選手も多い。インタビュー中に「イップスのことは書かないでください」と懇願してきたドラフト候補もいた。そして岩本は野球界の恐るべき実態を明かす。

「プロ野球選手がやめる原因の8割はイップスですよ」

 最初は岩本らしいリップサービスなのかと思ったが、本人の目は真剣そのものだった。イップスによって地獄の底まで叩き落とされた男だからこそ、この言葉は重かった。

 岩本がイップスを発症したのは、プロ入り後の若手時代だったと多くの文献に書かれている。だが、本人に聞くと「小学生の頃から、ずっと(イップスを)持っていました」と言う。

「プロに入るまで『イップス』なんて言葉は知りませんでしたから、自分に何が起きているのかわからないんですよ。リトルリーグの頃から球審の『プレイボール』の声が掛かって、滑り出しでうまくストライクが入る日と、そうでない日があった。スパッと入れたらいいんやけど、悪い日は腕が縮こまってストライクが入らない。滑り出しで入れない日はすぐに交代させられていましたね。だから試合の前の日はいつも眠る前に祈っていましたよ。『明日はストライクが入る日でありますように』ってね(笑)」