今は新しい仲間と...。バレンティンとの短いハグが示す田中浩康の再出発 (3ページ目)

  • 石塚隆●文 text by Ishizuka Takashi
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

 自分の役割と何か。自分がここに来た意味とは何か――田中には、はたしてDeNAの若手選手たちに伝えていきたい、あるいは残していきたいものがあるのだろうか。そう尋ねると、田中は遠慮がちにかぶりを振った。

「いや、そんな大それたことを自分はしようとは思っていませんよ。ただ、コミュニケーションをすごく取りたいなと思っているんです。横浜は若くていい選手が多いし、接していくことで僕自身、新たな発見があるんです。さらに僕も成長したいし、そういう意味で今は充実していますね」

 余談になるが、田中は球界きっての読書家である。本を読む理由は、いろんな考え方に触れることが好きだからだ。以前、読書について尋ねたとき、田中は次のような話をしてくれた。

「本はすごく勉強になりますね。読んでいて思うのは、素直に耳を傾けなければ興味があることも身につかないし、学ぶ心がなければ成長できないということ。僕たちプロ野球選手は常に変化を求められるので、どんどん変わっていかなければいけないんです。新しいことにトライしていく気持ちを常に持っておきたいですね」

 プロ13年目で迎えた大きな転機。田中は34歳になって、かつて発した言葉どおり新しいことにトライしようとしている。

 夕闇が迫りつつある神宮球場。シーズン初勝利の余韻にひたるかのように、三塁側にはたくさんのDeNAファンが家路につかず残っていた。そんな光景を見ながら田中は最後にこう言った。

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