侍ジャパンを「正常運転」にさせた
石川歩の強心臓と7本の内野ゴロ

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Getty Images

 リードした小林に聞くと、シンカーはコントロールよりも「スピード」に問題があったと明かしていた。

「(シンカーは)今日は空振りを取るというより、バットに当たってファウルになっていました。ベンチで(炭谷)銀二朗さんも言っていたんですけど、『いつもよりシンカーが速いな』って。僕も『やっぱり、そうか』と。緩急とかいろんなことを考えて、今日はシンカーよりスライダーを多く使いました」

 シンカーが本来の変化をしなかった理由について、石川は「メンタルの問題ではない」と言い、暗にWBC公式球との相性を示唆した。ただ、シンカーという片翼をもがれた状態でも、石川は先発投手として4回58球を投げきり、被安打2、失点1と大役をまっとうした。

 それにしても驚くべきは、石川の強心臓ぶりである。小久保監督は「僕がいちばん地に足がついてなかったんじゃないか」と言い、小林は「ものすごく緊張しました」と言った。4年に1度の大一番だけに、ごく当然の感想のように思えるが、石川は「まったく緊張しなかった」と言い切った。

「雰囲気はいつもと違いましたけど、普段通り投げられました」

 東京ガス時代にも石川のことを取材しているが、ここまで豪胆な投手だとは思いもしなかった。

 キューバ戦ではリリーフ陣が打ち込まれ、まだまだ前途多難な侍ジャパン。それでも不安視された野手陣が本来の実力を発揮したことは大いなる前進と言えるだろう。大会が終わるその時、「石川が開幕投手で良かった」と思える結末が待っているのか。戦いはまだ、始まったばかりだ。

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