元ホークス斉藤和巳が今だから話せる、復帰を目指した地獄の日々 (2ページ目)

  • 元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro
  • photo by Kyodo News 協力●寺崎江月

――少しずつでも状態がよくなれば希望も持てますが、後戻りはきついですね。

斉藤 ボールを握るようになってからは「安心したらあかん」といつも言い聞かせていました。思った通りにいかないのが、ピッチャーのリハビリなんです。肩の関節はもともと、ボールを投げるためにつくられていないので、どうしても時間がかかりますね。3回目のときは、その段階で「とうとうきたか。これからさらにしんどいことが始まるぞ」と覚悟しました。

――短い距離のキャッチボール、遠投、ブルペンでのピッチング、バッターを立たせての投球まで、いろいろな関門があります。

斉藤 その都度その都度、壁があって、それをどう乗り越えるかを考えていました。はじめのキャッチボールなんて、10メートルくらいの距離を20球か30球投げるだけ。肩の動きや痛みを確認しながらの慎重な作業です。

――それでも、投げられる喜びを感じましたか。

斉藤 距離がすこしずつ長くなって、ある程度自信がついてくると、喜びが湧いてきます。「ここまで投げられるようになったのか」と。でも、そこで痛みを感じたり、「あれっ?」と違和感を覚えたときがショックなんです。次の日、投げるのが怖くなる。違和感をトレーナーに伝えると、またずっと前のところに戻らなければならない。「また、あそこに戻るのか」と暗い気持ちになって......。スタート地点に戻って、そこからまた一歩一歩というのが本当にしんどい。最後の6年間はその繰り返しでした。

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