戦力外→打撃投手の久本祐一が語る
「落合GMから直電」の深い意味

  • 寺崎江月●取材・文 text by Terasaki Egetsu


── それだけ大きなトラウマになったということでしょうか。

久本 はい。オフになっても治らず、翌春のキャンプに入っても治らず、開幕後も二軍暮らし。そんななか、ようやく自分でもちょっと良くなってきたかなと感じはじめた頃に一軍に呼ばれ、3イニングいかせてもらった試合がありました。ところが、僕が9回にノーアウト満塁にしてしまったんです。

── またしても大ピンチ、まずい状況ですね。

久本 やはり頭をよぎりましたよ、緒方さんに打たれたときのことが。すると、その場面で落合さんがマウンドに来られて、「ここはおまえが1人で投げろ」「あとのピッチャーはみんな風呂に入れたから」と......。

── みんな、お風呂に入っちゃったら、もう誰もリリーフ登板できないじゃないですか。

久本 口調はそんな感じで冗談とわかっていたんですけど、目は真剣なんですよ。勝負師の目なんです。でも、怖いというよりは"おまえに任せたぞ!"みたいな感じだったので、僕がなんとかしなくてはならない。このとき結果的にゼロに抑えることができて、そこから自分が変わりました。

── 落合監督は褒めてくれましたか?

久本 ベンチ前でハイタッチをしているとき、落合さんに「これでピッチング覚えただろ?」と、ボソッと言われました。わざと最後まで3イニング、つまり打順ひと回りを投げさすことによって、一軍のピッチングを覚えろと。落合さんと森(繁和)さんは僕に心のダメージがあるのがわかっていて、ああいう風にしてくれたんだなと思います。その時に、森さんと落合さんというのは凄いんだなと感じました。それからは、自分が犠牲になってでもチームのために勝ちたいという気持ちが生まれたんです」

(後編につづく)

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