これが代走屋の魂だ。鈴木尚広が明かす「ラストプレーの真実」 (4ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Jiji photo

 この年、鈴木は足首の骨折を隠しながらプレーしていたのだ。

「6月の広島戦で、本塁でのクロスプレーでキャッチャーのブロックが足首にのしかかって、次の日にパンパンに腫れ上がったんです。腫れは少ししたら引いたのですが、数週間後にまた腫れてきた。たとえるなら虫歯の痛みが足に来て、常に続いているような感じ。病院に行ったらやっぱり骨折していて、手術を勧められたんですけど、僕は『手術をしたら終わり』と思っていました」

 そして鈴木は覚悟を決める。「やりながら治そう」と。テーピングをグルグル巻いて足首を固定し、スライディング後に襲われる激痛にも耐えた。鈴木はチームの井端弘和コーチから「先生」と呼ばれるほど体の使い方を追求してきた選手だが、この年ばかりは「体の使い方がどうとか、そんなこと考えられなかった」という。

 この年、巨人は日本一こそ逃したものの、リーグ優勝を飾った。そして鈴木はシーズン通して80試合に出場し、13盗塁(3盗塁刺)を記録している。鈴木の好きな言葉である「武士は食わねど高楊枝」を体現してみせた年だった。シーズン終了後、再び病院でレントゲン写真を撮ると、骨折は完治していたという。

 骨折を隠し通してまで、鈴木が走り続けた理由は何だったのだろう。前述した歴代トップの盗塁成功率についても「気づいたら1位なんだな......という感じで、喜んでもらうのはファンやお世話になった方々ですから」と記録に執着することもなかった。

4 / 5

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る