これが代走屋の魂だ。鈴木尚広が明かす「ラストプレーの真実」 (3ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Jiji photo

 10月10日。クライマックスシリーズ・DeNA戦で「事件」は起きた。代走に起用された鈴木は、DeNAの中継ぎ左腕・田中健二朗の一塁牽制に一瞬飛び出してしまい、タッチアウトを喫した。これが、鈴木の現役最後のプレーになった。

 なぜ鈴木は失敗したのか。田中の右足が上がった瞬間、鈴木は何を思い、何を見て、どのように反応してアウトになったのか。だが、鈴木はこのシーンを「言葉では説明できない」と言う。

「考えれば考えるほど、体は動けなくなるものなんです。一度リードを取ったら、もう考えて動くのではなく、反応するだけ。だから準備するんです。いい反応ができるように準備して、動きの引き出しを増やして、試合に入れば考えない。あとは自分を信じてやるだけですから。このときは、自分の体の反応が凶と出た。心・技・体すべてが整っていないと成功できない。そのかげりが見えたということでしょう」

 充実する技・体とはうらはらに、疲労が積み重なっていた心。心・技・体のバランスが崩れたことを感じた鈴木は、ユニフォームを脱ぐ決意を固めたのだった。

 20年間の現役生活のなかでは、さまざまな出来事があった。プロ2年目には二軍で盗塁0、盗塁刺(とうるいし)6と深い絶望を味わった年もあった。地面に足を着くのも痛いほどのアキレス腱痛が、一軍に昇格したとたんにピタリと消えた「不思議体験」もあった。そんななかでも「最大のピンチ」と言えるのは2013年のシーズンだろう。

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