短すぎた絶頂期。「しくじりエース」小松聖が若手に伝えたいこと (4ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Sportiva

 そう自嘲気味に語ったが、前を向き続けたことで残ったものはいくつもあった。

「ここ何年かは『これがラスト登板』と思って投げていました。『悔いなくこの試合を投げ切る』。そのための最高の準備をして試合に入る、と」

 一昨年、小松は右ひじの手術を行なった。置かれた状況も年々厳しくなるなか、昨年の8月28日、この年初の一軍登録の際には福島に住む両親に連絡を入れた。「これで打たれたら最後になるかもしれんから......」と、QVCマリンフィールド(現・ZOZOマリンスタジアム)でのロッテ戦に招いた。するとこの試合で2回を2安打無失点。さらに、この試合の2イニング目のふたり目の打者から、9月22日の西武戦で森友哉に二塁打を許すまで、9試合に登板し、打者31人をノーヒット(4四球)に抑えたこともあった。

「甘い球もありましたけど、たまたまヒットにならなかっただけ。何かが変わったというわけではなかったんです。ただ、覚悟を持った人間は意外にやっちゃうな、というのはわかりました(笑)」

 これも苦境のなかで学んだことのひとつだった。

 今シーズンはキャンプから肩、ひじの状態はよく、気持ちも乗っていた。しかし、一軍からはなかなか声がかからず、世代交代の波も感じながら心は決まっていた。静かに現役生活を終えるつもりだったが、最後に引退試合が用意された。

「まさかこんな形で送ってもらえるとは思っていなかったので、本当に嬉しかった。今もそのときの感動が残っています」

 そう感謝の思いを口にしたが、それも苦しいときこそ前を向いて踏ん張り続けた姿があったからこその球団からのご褒美だったのだろう。

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