貫いた美学。黒田博樹がチームメイトに伝えた最後のメッセージ (4ページ目)

  • 前原淳●文 text by Maehara Jun
  • 西田泰輔●写真 photo by Nishida Taisuke

 日本シリーズに敗れ、あらためて引退会見を開いたときには涙はなかった。

「涙はいっぱい流してきたので、最後くらいはいいかな」

 決して強がりではなかった。背負い続けてきた重圧から解放される安堵感、走り抜けた20年に後悔はなかったからだ。

 ただ、すべてを知る野球の神様の前では嘘がつけなかった。優勝パレードを終えた報告会で、マツダスタジアムのマウンドにお礼をいうためにひざまずいた。

「マウンドにもう上がらなくていいという気持ちと、もう上がれないという気持ちがあった」

 黒田は立ち上がることができず、むせび泣いた。

 その涙は、野球にすべてを注いできた結晶だったのかもしれない。

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