貫いた美学。黒田博樹がチームメイトに伝えた最後のメッセージ (2ページ目)

  • 前原淳●文 text by Maehara Jun
  • 西田泰輔●写真 photo by Nishida Taisuke

 それでも、日本ハムに傾きかけた流れを懸命に食い止めた。両サイドの低めに徹底して投げ込み、連打を許さない。何よりマウンドでの気迫が日本ハム打線を押した。

 ところが、1点リードの6回。珍しくマウンドで足を屈伸する仕草を見せた。黒田の体は限界に達していた。一死走者なしから、この日2本の二塁打を浴びていた大谷翔平をフォークでレフトフライに打ち取ると、もう支えきれなくなる。両足がつったため、ベンチに退いた。

日本シリーズ第3戦に先発した黒田博樹。これが現役最後の登板になった日本シリーズ第3戦に先発した黒田博樹。これが現役最後の登板になった ベンチ裏では顔をゆがめるほどの痛みだったにもかかわらず、一度はマウンドに戻って、続投の意思を示した。投球練習中にほかの箇所にも張りを感じたため断念したが、その背中をチームメイトたちは見ていた。

 最後まで黒田は戦った。

 控え投手に甘んじていた上宮高時代は、自分自身との戦いだった。投げては打たれ、歩かせ、そして打たれる。来る日も来る日も走らされた記憶しかない。それでも逃げなかった。練習からも、自分からも、野球からも......。

 プロは弱肉強食の世界。強い者が生き残り、生き残った者が強い。だからこそ復帰した広島で、若手に「プロの世界はやるかやられるか。相手を倒す気持ちで投げないと、相手にやられる」と伝えてきた。気持ちで勝てる世界ではないことはわかっている。だが、気持ちがなければ勝てない世界であることも感じていた。

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