高校時代に放った大ファウルに
西川遥輝のスラッガーの資質を見た

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • 西田泰輔●写真 photo by Nishida Taisuke

「誰より僕がビックリしました。ウチはあんなに高い評価をしていたのか、って」

 今も基本は変わらないが、当時は各地区の担当スカウトから上げられた評価を総合的に判断し、山田正雄GM(当時)と大渕隆スカウトディレクターが指名選手を決定していたのだ。このドラフトの結果を耳にしたとき、「日本ハムのトップは、西川のあの一発を信じたのではないか」と思ったものだった。

 一発の魅力を秘めた西川だったが、プロ入り後、求められてきたのはチャンスメーカーとしての働きだった。2番からスタートし、8月から1番に定着した今季も、つなぎ役と出塁にこだわった。今季ホームランは5本記録したが、6月12日、59試合目で放った1本を最後に一発は止まった。

 故障が打撃スタイルに影響したという声もあるが、なにより首位を独走していたソフトバンク追撃のために自分がなにをすべきか。そのなかで出した結論が、一発を捨てるバッティングだったのだろう。

 相手投手に球数を投げさせ、2ストライクからの勝負をいとわない打撃を続けた。逆方向への打球を意識し、打撃練習ではケージの左側ネットに打球を返すスイングを繰り返した。今季、併殺打ゼロに見る全力疾走の徹底も、常に勝利を考えての結果だった。今シーズンの西川の打席は、常に制約があったと言ってもいい。

 それが――。日本シリーズ第5戦、1対1で迎えた9回裏二死満塁。シリーズの行方を左右しかねない重圧のかかる打席が、実は西川にとってはなんの制約もない打席でもあった。来た球を振り抜くのみ。

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