主演・大谷翔平の起用に見る
演出家・栗山監督「日本一へのシナリオ」

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Kyodo News

 栗山監督は、とにかくいろんなことを考えている。寝ても覚めても、野球のことを、チームのことを考えている。シーズン中も、同時進行でいくつもの懸案事項について頭を巡らせている。試合となれば、何パターンもの展開を予測し、あらゆることを想定して準備をしておく。だから栗山監督は、野球のことに関して、想定外のことは「起こらない」と断言した。

「だって、たとえば5戦目、6戦目までもつれたら、苦しくなってるというのは最初からわかってること。そんなことは想定しておかなきゃおかしいし、そこで何かしようとしても手遅れだからね」

 初回、早々に4点を失った加藤を1イニングで見限って、ブルペンで準備をさせていたアンソニー・バースを2回表からつぎ込む。2点差に追い上げた4回のワンアウト満塁では、早くもキャッチャーの大野奨太に代打の岡大海を送った。そして、リードを広げた9回表のマウンドには、DHとして試合に出ていた大谷翔平をクローザーとしてマウンドへ送り込むという荒業を繰り出す。

 どれもが見るものを驚かせる采配だ。

 しかし、どの手にも、指揮官には厳しい冬の如き試練に向けた"備え"があった。それは、たとえばこの日のベンチ入りメンバーを見ればわかる。

 栗山監督はこの日、先発の加藤を除いてピッチャーを7人、登録している。ここまでのホークスとの4試合では、先発を除いて8人のピッチャーをベンチ入りメンバーとして登録してきた。しかし、この第5戦だけは7人だった。足の状態がよくなかった守護神のクリス・マーティンを外さざるを得なかったのにもかかわらず、誰も加えられていなかったのである。つまり8人目のピッチャーは、DHとして出場していた大谷をイメージしていたことが窺える。そして、その前の第4戦では2人だったキャッチャー登録を3人に増やしていた。この意図はどこにあったのか──栗山監督はこう説明する。

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