森本稀哲「引退試合の奇跡」を生んだ、プロ17年間の全力プレー (5ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 甲斐啓二郎●写真 photo by Kai Keijiro寺崎敦●取材協力 cooperation by Terasaki Atsushi

 昨季のシーズン中、西武第二球場でのイースタン・リーグでは、20歳前後の若手に混じって、大きな声を張り上げ、全力疾走をする森本の姿があった。なぜ、二軍でこれだけ高いモチベーションが保てるのか、不思議でならなかった。

 そんな疑問を伝えると、森本はこう答えた。

「苦しいときこそ、人間の力が現れると思うんです。17年もやっていれば、いいときばかりじゃありません。苦しいときこそ、今、自分にできることを問いただしながらやろうと決めていました。それと、僕も若い頃にファームで腐っている人を見て『やる気ないんだなぁ......』と思うこともありました。自分はこうなりたくないなと」

 日本ハムから移籍したDeNA時代には、ファームで「なぜ自分を試してくれない?」と苦しんだ時期もあったという。それでも、「厳しいなかでどれだけチャレンジできるか」にこだわった。そして西武での2年目となる昨季は、ほとんどファームで過ごしていたが、「頑張るのが当たり前」という境地に達していたという。

 昨季まで西武に在籍した脇谷亮太(巨人)は、小サイトのインタビューで「パ・リーグで大きな影響を受けた選手は?」という質問に対して、森本の名前を挙げている。

「チームメイトとして身近にいて、あの明るいキャラクターと野球に対する情熱は、とても勉強になりました。僕のいた頃の巨人に誰か近い人がいたかなぁと思い返してもみましたが、ああいうタイプはいなかったですね。ですから、僕がどんどん、今のチームに稀哲さんのスピリッツを伝えていきたいと思っています。あの引退試合での最後、チームの全員がなんとか稀哲さんまで打席を回そうとしていた光景は、ベンチの外で松葉杖をつきながら観戦していたのですが、一生忘れられない場面でした」

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