2016.03.30

【根本陸夫伝】
頑なにダイエーの監督を拒む王貞治をくどき落とした男

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki
  • photo by Kyodo News

 1カ月後の2月半ば、解説者・王がNHKの取材で高知のダイエーキャンプを訪れたときのこと。監督・根本から食事に誘われ、その席でも「どうだ?」と言われ、気持ちが微かに揺れ動いた。

「最初は冗談だと思ってたのが、本気で声をかけてくれているとわかって、根本さんがあきらめずに声をかけてくれたとき、僕はこう考えた。”生涯巨人”の思いを断ち切って心機一転を図るとしたら、当時、東京ドームが本拠地だった日本ハムや在京球団ではやりづらいだろうなって。だったら逆に、東京から遠く離れたパ・リーグの球団ならいいんじゃないかって。そうして、ここでユニフォーム着るのもいいんじゃないか、と思い始めた。ただ、僕の周りの人たちは全員、反対だったけどね」

 そんな心境の変化を感じ取っていた根本は、自身が現場で指揮を執ることもあり、王との入団交渉を代表の瀬戸山に一任。「ノーと言われるまで、毎月会え」と言って、同じ銀座のフランス料理店で月一回、王と面会するよう命じた。当初は頑なに拒否されていた瀬戸山に対し、根本は「絶対、ワンちゃんは最後、受ける。野球人だから受けるんだよ。まあ、ぼちぼちやれ」と言って励ました。5回目の面会で、王は瀬戸山に「監督を引き受けます」と返事をした。

「あのときはなんだろう。今、自分で振り返ってみると、根本さんはあわてないで一歩一歩、周りを固めていくっていうかね……そうやって、本人をその気にさせるっていうことをやっていたんだと思う。機が熟すというか、タイミング的なものもよかったんじゃないかな。それにしても、まさかホークスから声がかかるとは思わなかった。根本さんから声をかけてもらうまで、パ・リーグも、福岡も、まったく頭になかったからね」