2016.03.30

【根本陸夫伝】
頑なにダイエーの監督を拒む王貞治をくどき落とした男

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki
  • photo by Kyodo News

 冗談としか思えなかった。王自身、再びユニフォームを着たい、という気持ちが芽生えてはいたが、パ・リーグで野球をやることは想像もしていなかった。九州の球団で野球をやる自分も考えられなかった。

 その後、根本は同年のシーズンオフ、東京で行なわれたパーティーの席で王と顔を合わせると、「ワンちゃん、ちょっと話がある」と言った。パーティーを抜け、近くのホテルに連れ出してふたりきりになると、「来年、ダイエーの監督をやってくれ、どうだ」といきなり切り出してきた。これは本気なのかもしれない、と感じた王だったが、「やります」とも「やりません」とも言わなかった。「大先輩に声をかけてもらってありがたい気持ちです」とだけ答えた。

王貞治の気持ちをぐらつかせた根本の言葉

 これは本気だと確信したのは、94年の1月半ば。東京・銀座のフランス料理店で、王と根本、そしてダイエー球団代表の瀬戸山隆三(現・オリックス本部長)と3人で面会した時のこと。初めて監督就任を”公式”に打診された。根本はその席で王にこう言った。

「東京ドームには長嶋茂雄という長男がいる。君は福岡ドームの長男にならんか。補強はいくらでもする」

 長嶋は前年から巨人の監督に復帰していた。そのことを引き合いに出した言葉だった。すなわち、王の巨人復帰はなくなった、という状況を踏まえた言葉でもある。最初に声をかけられたときに聞かされた、日本シリーズでの”ON対決”構想もあらためて披露された。それでも王自身、まだまだ巨人以外のユニフォームを着る自分をイメージできず、「この先、いくらお話をいただいてもお受けできません」と答えた。