タオルを振る京大プロ投手「田中英祐よ、もっと無責任にやれ!」

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • スポルティーバ●写真 photo by Sportiva

「田中、お前はシャドウからな」

 石垣島でのロッテ二軍キャンプ。ブルペンに入ろうとした田中英祐に、小谷正勝投手コーチが声を掛けた。田中は静かにうなずくと、白いタオルを右手に握って、ブルペンのマウンド上でシャドウピッチングを始めた。しばらくタオルを振ったのち、今度はボールに握り替えてピッチングを開始したのだが、その内容は明らかに周囲の投手とは異質なものだった。

京大初のプロ野球選手として注目を集めたロッテ田中英祐京大初のプロ野球選手として注目を集めたロッテ田中英祐

 捕手を立たせた状態の「立ち投げ」の時間が長く、捕手を座らせた後も球種はストレートのみ。クイックモーションで投げることもない。時折、リリースポイントが乱れて、捕手が捕れないような大暴投のシーンも見られた。そのたびに田中は自分の頭部付近で右手をひらひらと動かし、リリースポイントを確認するのだった。

 投球練習を終えた田中は、自身の現状についてこう語った。

「小谷さんからは下半身を連動させることと、リリースポイントについてアドバイスをいただいています。ボールに力が伝わるポイントがあるので、そこを固めている段階です。変化球はまだ投げていません。早くやりたい気持ちもありますけど、今の感じだと焦ってもついていかないので......。今、取り組んでいることに集中してやらせてもらっています」

 もはや、「開幕一軍」などと言えるような段階ではない。昨季、史上初の京大卒のプロ野球選手として話題になった田中は、今春のキャンプでフォームを一からつくり直していた。

「結局、まだ『自分のもの』と言えるものがなかったということだな」

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