現役引退の谷佳知が語った「残り72本よりも大切なもの」 (4ページ目)

  • 楢崎豊(報知新聞社)●文 text by Narasaki Yutaka
  • photo by Kyodo News

 選手たちも次第に仰木監督の考えが理解できるようになり、準備がしやすくなったという。

 谷はふたりの指揮官の考えを理解しながら、打席に立ち続けた。しかし、年を重ねるにつれ、技術の衰えが見え始め、若手も台頭してきた。12年には2000本安打まで残り100本を切ったが、そこからなかなか減らなかった。当然、試合に出れば打てる自信はあった。

 巨人を自由契約となっても「まだできる自信がある。2000本安打は自分だけのものではない。応援してくれている人たちの思いもある」と移籍先を探し、年俸3000万円(推定)、1年契約で古巣・オリックスからのオファーをありがたく受け入れた。

「僕自身、このチームでまだ優勝がない。優勝する喜びを若い選手に伝え、その結果、2000本安打も達成できればいい」

 そう抱負を語っていた谷だったが、オリックス移籍後も出番は少なく、14年はわずか9試合の出場に終わった。それだけに今年に懸ける思いは強かった。

 今年1月、自主トレのために宮崎にやってきた谷は、宿泊先のホテルの一室で練習道具を並べながら、こうつぶやいた。

「2000本安打は目標だけど、今年アカンかったら(引き際を)考えないといけない」

 悲壮な覚悟で挑んだ今季、6月11日に初めて一軍昇格を果たし、ヒットも放った。このまま出場機会が増えれば、大記録達成の可能性も見えてくる。しかし、谷が取った行動は意外なものだった。

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