現役引退の谷佳知が語った「残り72本よりも大切なもの」

  • 楢崎豊(報知新聞社)●文 text by Narasaki Yutaka
  • photo by Kyodo News

 10月3日、京セラドーム大阪で行なわれた谷佳知(オリックス)の引退試合。球場内には大々的にポスターが貼られ、イニングの間には谷の現役時代を振り返る映像が繰り返し流れた。主役の登場は7回一死一塁。大歓声に迎えられ、谷は代打として打席に入った。

引退セレモニーでチームメイトから胴上げされる谷佳知引退セレモニーでチームメイトから胴上げされる谷佳知

 マウンドにはソフトバンクの急成長右腕・武田翔太。現役最後の打席を味わうという考えは最初からなかった。これまでと同じように、来たボールに対して反応するだけだった。その初球、武田が投じたストレートに体が勝手に反応し、バットを振り抜いた。

「タイミングは合っていなかったし、芯も外れていた。ヒットになるとは思っていなかった」

 執念で打ち返した打球はライトの前で弾み、これが通算1928本目のヒットとなった。8回表にはライトの守備につき、一死になったところで駿太と交代。ベンチに戻り、笑顔でナインとハイタッチを交わし、深々とスタンドへ頭を下げ、19年の現役生活に別れを告げた。

 尽誠学園(香川)から大阪商業大を経て、社会人の三菱自動車岡崎に進んだ谷は、「どうやってヒットを打ち、いかに遠くに飛ばすかを考えて練習していた」の言葉通り、連日の打撃練習で卓越したバットコントロールを身につけた。それがスカウトの目にとまり、96年のドラフトでオリックスから2位指名を受け入団。

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