武田翔太「やる気のないフォーム」が生んだ150キロと魔球 (3ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

 そしてもうひとつ。もう対戦チームの名前は忘れてしまったが、練習試合で打ち込まれたときの出来事だ。

「ヒットを18本くらい打たれて、もうボロボロ。それでも監督から『最後までいけ』と言われて……。もう『何やっても打たれるから』と開き直って、3割くらいの力で投げたんです。そうしたら、『ピュンッ!』とスピードが出て、バッタバッタと三振がとれた。チームメイトからも『どうした? 別人になったな』と言われて。『これか!』と思いました」

 パワーがあるからといって、力のあるボールが投げられるわけではない。武田は杉内の投球と練習試合の経験を通じて「力の入れどころ」の重要性に気づかされた。

「力を入れるのは、最後(リリース)の一瞬だけ。それまでは力を抜いているので、動作がスムーズになり、動きも小さくなりました。それ以来、スピードにこだわらなくなりましたね」

 力を入れるタイミングをつかむのに時間はかかったが、スピードへのこだわりを捨てると、皮肉にも球速は150キロを超えていた。そして武田は、驚くべきことを口にした。

「今だから言えますけど、高校時代に思い切り投げたことはないですね」

 公式戦になれば連投があるため、力をセーブしなければならなかった。また普段の練習でも、「どうせ土日の練習試合で連投するから……」と平日はブルペンに入ることがなかった。日々の練習では走り込みとシャドーピッチングばかりだったという。あとは「練習試合」の言葉通り、武田は実戦の場で自分の感覚をつかんだのだ。

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