なんと6度目のトライアウト。大平成一を支える「鬼嫁」の愛

  • 菊地高弘●文・写真 text&photo by Kikuchi Takahiro

「確かに、信濃に来た当初は周りを『プロに行けなかった人たちだろ』と、見下していました。でも、BCリーグには僕よりも優れた選手がたくさんいることに気づいたんです。そこで過去の経歴ではなく、目の前の評価を認められるようになりました。もちろん、『元プロ』としての誇りはあります。でも、それは『打ったらファーストまで全力で走る』『ミスしてもしょげないで、次に切り替える』。そうしたことを、上を目指す選手に見せることだと思っています」

 NPBまで上り詰めた選手のなかで、果たしてここまで謙虚な野球人はいるのだろうか……。思わず考え込んでしまった。あとは本人が納得するまで、トライアウトを受け続けてほしい。そう願った。

 しかし、家族はどう考えているのだろうか。大平には信濃に入団してから結婚した妻・優衣(ゆい)さんと、2歳になる愛娘・望愛(のあ)ちゃんがいる。大平は「子どもはかわいいですよねぇ」とはにかみながら、こう言った。

「娘が物心つくまでは、なんとかユニフォームを着ていたいですね。子どもが大きくなってから、『ウチのお父さんは昔すごかったんだよ』と自慢できるような……。これが一番のモチベーションになっているかもしれませんね」

「奥さんはその思いを理解しているのですか?」。そう聞くと、大平は嬉しそうな表情を浮かべた。

「ぜひ『やれっ!』て感じですね。『右手が使えなくなっても、左手があるじゃん!』と言うような人間なので(笑)」

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