かつての剛腕3人の光と影。トライアウトで見た「帝京魂」 (5ページ目)

  • 菊地高弘●文・写真 text&photo by Kikuchi Takahiro

 この日の最高球速は138キロ。どうしても高校1年時のイメージからすると物足りなく感じてしまうが、それでも「新・伊藤拓郎」の光を見たような気がした。右打者、左打者に対して、それぞれ意図的な投球パターンを披露していたからだ。

「左バッターに対しては、インコースに真っすぐとスライダー、追い込んだら外に逃げていくようなフォークで抑える。右バッターにはツーシームとスライダーで打ち取る。このパターンは群馬に来て、最近できてきたパターンです。今日もそれは出せました」

 また、腕の軌道を下げたことについて聞くと、「このフォームに変えてから、良くなってきています」と、やはりポジティブな言葉が返ってきた。

 事前の情報なしに初めて伊藤拓郎という投手を見た人は、「なかなかいい投手じゃないか」と思えたはずだ。だが、周囲は「怪物・伊藤拓郎」の過去を追いかけてしまう。また、伊藤自身も「もっとスピードがないと評価してもらえない」と現実を見つめている。

 今後については「(NPB球団からの連絡を)待つだけです」と語った伊藤。だが、もがき苦しんでいるように見えて、表情は常に明るかった。

 三者三様だった帝京OB右腕のトライアウト。それぞれに結果と現実を受け止めて、新たな野球人生を模索する投手も、別の道に進む投手もいるだろう。だが、どんな決断を下すにしても、闘将・前田三夫監督のもとで養われた勝負への厳しさと闘争心で、次のステージでも“帝京魂”を発揮してほしいと強く願っている。

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