楽天・安樂智大、プロ初勝利も「ダメ出し」をした父の思い (3ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Kyodo News

 初登板の夜、母のゆかりさんは愛媛から仙台まで駆けつけたが、晃一さんは勤務先の大阪で仕事を終えた後、スマートフォンの画面で息子のデビュー戦を観戦した。

 晃一さんが言った「上甲さんとの約束」とは、昨年の夏に逝去した済美高の監督・上甲正典氏と安樂が交わした3つの約束を指している。

1. 監督さんを胴上げすること
2. 160キロを出すこと
3. ドラフト1位でプロの世界へ進むこと

 なかでも晃一さんが指摘するのが、2つ目の約束だ。息子のプロ初勝利にホッとした思いを抱きながら、それでも晃一さんが厳しい言葉を続けた。

「ソフトバンクの選手はクライマックス・シリーズを控えていて、ぶつけられでもしたらたまらない。だから、外のストレートにも踏み込んでこなかったですよね。2回、二死満塁の場面で上林(誠知)選手を三振に取ったフォークは、ストレートがよければナイスボールと言ってやりたいですけど、あのストレートでは……」

 プロは球速を競う場ではない。安樂が求める「質」がなにより大事だということは元球児だった晃一さんも理解している。ただ、辛口発言の背景には、これまで歩んできた少年時代からの過程がある。ふたりで壮大な目標を立て、それへ挑みながら成長し、結果を残してきた。

 小学校の頃には「高校で1年生からエースになり、5回の甲子園」と「全国制覇」を掲げた。だから安樂は、高校1年の夏、愛媛大会準決勝で先発し敗れた後、3年生以上に号泣した。その姿を見た晃一さんは「本気で狙っていたのか……」と胸を打たれた。

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