2015.09.21

【根本陸夫伝】
試合中にもかかわらず下柳剛を延々と説教した男

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki
  • photo by Kyodo News

合理的な考え方と、非合理的な起用法

 もうひとつ、投手・下柳の考え方をガラリと変えた根本からの助言がある。マウンド上で強がったような態度を見せた時など、よく言われたという。

「『お前はなにを考えてんだ? 試合で緊張するのは当たり前だ。誰だって、緊張するものなんだ。それをなぜお前は隠そうとする? 緊張して、青い顔をして投げていたって、アウトを取った人間の勝ちなんだ。緊張してもいいからアウトを取って、チェンジになって帰ってくればいいんだよ』と」

 緊張を隠そうとして強がるのは、下手に労力を使うのに等しい。そんなことに労力を使うのではなく、アウトを取るために全力になる。緊張している自分に正直に向き合い、アウトを取るために全力になっていくと、勝手に緊張が消えていく。後々、下柳はマウンド上でそのことを実感した。

「ベテランになってからも、ピッチャーはマウンドに上がるまでは緊張するものなんですよ。でも、若い子にすれば、オレなんかは見た目的にもそう見えるんでしょうね、よく「緊張しないんですか?」って言われました。そこでオヤジの教えを思い出して、「するに決まっとるやないか。めちゃめちゃ緊張するわい。緊張せん奴がいたら会ってみたいわ」って話をするようにしてました」
 
 バットが届くところがストライクと思え──。緊張を隠すために強がるな──。どちらにも通底しているのは、合理的な考え方である。半面、監督としての下柳起用法は、非合理的と言わざるを得なかった。