球宴初出場。DeNA田中健二朗が亡き母に誓う全力投球 (2ページ目)

  • 石塚隆●文 text by Ishizuka Takashi
  • photo by(C)YOKOHAMA DeNA BAYSTARS

「3年ぐらい前から、今年でクビになるんじゃないかって思いながらやっていましたね。絶対に結果を出してやろうと一軍で投げても、なかなか結果が出ない。もう終わっちゃうのかなって思った時もありました」

 そんな田中の覚醒を予感させたのが、昨シーズンの9月に一軍へ昇格した時だった。9試合で10イニングを投げ、自責点0。見事に仕事をこなし、首脳陣の期待に応えてみせた。はたして、田中に何があったのか?

「ファームにいた時、どうにかして今の状態を打破しないといけないと思ったんです。もし、このまま(選手生活が)終わってしまっても、とことんやった方がスッキリする。そこから先輩やコーチに『自分はこう思っているんですけど、どう思いますか?』って、いろいろと聞き始めたんです」

 どちらかというと田中は、自分ひとりで黙々と考え、正しいと思ったことを追求していく職人気質の投手だが、もはや崖っぷちの野球人生。なり振りかまっていられず、自分の考えをいろんな人に伝え、アドバイスを求めた。

「当時二軍の投手コーチだった木塚(敦志)さんにフォームをチェックしてもらい、例えば、体重移動の時にいちばん力が伝わる前足の使い方を教わったりしました。自分でも納得したし、これでダメだったら仕方がないって。あとは気持ちの面でもアドバイスをもらいました。『とにかく攻める気持ちを忘れるな!』と」

 その結果、ストレートで勝負できるようになり、持ち味であるカーブがより生きるようになった。また昨年から意識して投げ始めたフォークもピッチングの幅を広げている。何より気持ちを前面に押し出した気迫の投球は、チームに勇気を与えた。この田中の好投を見て、左の先発が不足していたチームでは配置換えを検討したようだが、本人は中継ぎにこだわった。

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