両親に「初休業」を決断させた、鈴木尚広19年目の「初球宴」 (5ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

「勝負というよりも、今回は自分がいかに楽しめるかということを求めていきたいと思います。もちろん、お客様は勝負を楽しみにしてくださっていると思うんですけど、僕の中では結果を気にせずに、この舞台の雰囲気を楽しめるように走っていけたらいいなと思っています」

 今まで、そんな心境で代走に出た経験は「まったくない」という。そして、鈴木は茶目っ気たっぷりに「だから楽ですね」と笑い飛ばした。

「100パーセント成功しなければならない、成功するためにはどうすればいいか、ということも考えなくていいので。今まで経験したことがないから、塁上に立ってみて、どういう感覚になるのかがわからないんですけど……。でも、レギュラーシーズンとは違った感覚になるのは間違いないですし、初めてプレッシャーから『解放』されるのかなと思います」

 そして鈴木にとって、もうひとつ特別なことがある。福島にいる鈴木の両親が店を休んで、オールスターを観戦するのだ。

「30年以上、年中無休なので、今まで家族旅行も行ったことがありません。でも、オールスターは家族総出で来るみたいで(笑)。鈴木家にとっては一大イベントですよね」

 コツコツとつくり上げてきた「鈴木の世界」に初めて足を踏み入れた両親は、どんな感慨を抱くのだろうか。そんなサイドストーリーを含みながら迎える、19年目で初めてのオールスター戦。「代走・鈴木尚広」のコールが今から待ち遠しい。

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