難病からの完全復活。ソフトバンク大隣憲司物語 (4ページ目)

  • 田尻耕太郎●文 text by Tajiri Kotaro
  • 繁昌良司●写真 photo by Hanjo Ryoji

 かつて近畿大学時代は最速152キロをマークし、“近大の江夏豊”の異名をとった。プロに入り球速は落ちたが、それでも病気にかかる前は140キロ中盤の真っすぐを投げていた。それが復帰後は135キロがやっとである。大隣はその原因について、次のように分析する。

「僕はもともと、少し反り返って投げるタイプだったんです。それが背中にメスを入れてからは、その投げ方ができなくなった」

 人間は背筋の方が腹筋よりも強い。大きく胸を張るように少し反り返った方が背筋の力を有効に活用できるため、球速が出ると言われている。だが、体に力が入れば体勢を一定にするのが難しくなり、それがコントロールのばらつきにつながってしまう。

「手術後に医者から『反り返る運動はしばらく控えるように』と言われたので、それを守っていたんです。それが影響したのかは定かではありませんが……」と笑いつつ、今の感覚について説明する。

「セットポジションから右足を上げる。その時にはもう、自分の目から捕手のミットへ1本のラインが見えるというか、球筋が分かるんです。『決まった』という感じですね。以前とは見える景色が変わりました」

 右足を上げ、左手でテイクバックを作り、そして投げにいく。そこに無駄な力は一切ない。体の軸がブレないから、視線も腕の振り方も安定する。となれば、コントロールが乱れるはずがないのである。

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