甲子園春夏優勝投手、ソフトバンク島袋洋奨の現在地 (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Sportiva

「高校のときから大学3年の夏までは、ずっと腕は振れていました。いや、振れていたというより、試合中に腕を振ろうなんて気にしたことがなかったんです。それがいつの間にか指先の感覚を失って、真っすぐのコントロールがつかなくなった。何も考えずに投げていたのが、試合中にいろんなことを考えるようになってしまって、頭の中はもうパニックでした。しょっちゅう言われたのが、とんでもないボールを放ってしまっても、ちゃんと自分で受け入れて、『ああ、投げちまったなみたいな感じで考えればいいんだよ』ってこと。でも、自分ではどうしても受け入れることができなかった。『もともとそういうボールを投げるようなピッチャーじゃなかったのに』って、ずっと思っていたんです」

 春夏連覇という、決して下ろすことのできない看板の重み。

 目指すのはプロなのに、という焦り。

 高校時代のイメージと、現実のピッチングとのギャップ。

「だから、あの頃はひどい夢ばっかり見てました。車を運転していたらブレーキが効かなくなる夢とか、エレベーターに乗っていたら突然、落下する夢とか……しかも、いちいち携帯でそんな夢の意味を調べたりしちゃったんですよね(苦笑)。そうしたら心理状態がよくないってことばっかりが書いてあって、余計、へこみました」

 微かな光が差し込んできたのは、大学4年の秋のことだ。

 負けている試合のリリーフで登板した島袋は、余計なことを考えず、ただ腕を振ろうと自らに言い聞かせた。その試合でかつての感覚を思い出した島袋は、一時、諦めかけたプロ志望届の提出を決めた。そして、ホークスから5位指名を受けたのである。

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