8年ぶり広島復帰の新井貴浩が放つ、懐かしくも新鮮な光 (2ページ目)

  • 前原淳●文 text by Maehara Jun
  • photo by Nikkan sports

 新井が狙うポジションは一塁か、三塁となる。一塁には昨年のセ・リーグ本塁打王のエルドレッドと新外国人のグスマンがおり、三塁には堂林翔太や小窪哲也、梵もいる。簡単に手に入るポジションなど、ひとつもない。ただ、純粋な定位置争いにがむしゃらになる姿勢こそ、新井の原点だといえる。

 キャンプ3日目まで新井の練習メニューはランチ中に行なわれる特打まで。それ以降はフリーだった。しかし、2日目は坂道ダッシュを1時間以上繰り返し、3日目には再び永田コーチに特守を志願するなど、連日、過酷なまでに自分を追い込んでいる。

 また、キャンプ3日目からは内野手の早出練習にも参加。体幹強化や挟殺プレイ、ノックなど、年齢がひと回り下の選手たちと一緒に汗を流している。

「春季キャンプの目的は1年を通して戦える体を作ること。そう考えれば、ベテランも早出練習に参加すればいいと思う。相手がいることで、より体も動こうとするしね」

 石井琢朗守備・走塁コーチは新井の加入により、チーム内の競争が激しくなったと言う。

 さらに、石井コーチは「ベテラン扱いされるよりも、若手とワイワイやった方がいい」と言う。自身も39歳で新天地での挑戦をした石井コーチは、ベテランを特別扱いしないことでチームに溶け込みやすい雰囲気を作り上げていたのだ。

 ただ、永田コーチは「ちょっと自分をいじめ過ぎじゃないか」と、猛練習を続ける新井を気遣った。それでも新井はこう力強く答えた。

「ケガをしてはいけないんだけど、ケガをしてもしょうがないくらいの気持ちでやっています。何年ぶりかわからないぐらい体はしんどいですけど、すごく充実しています」

 そしてチームは、新井が加わったことにより"化学反応"が起こっている。第1クールを終え、緒方監督は新井の存在感を認めた。

「早出練習にも参加して、本当に元気がいい。若手にも負けていない。新井の動きを見た若い選手は、刺激を受けていると思う」

 新井とともに早出練習に参加する若手選手は目の色を変え練習に取り組み、梵や石原慶幸(捕手)といったベテランも自然と声を出すようになった。

 一球一球全力で取り組み、自らの限界に挑む。言葉ではなく、背中で示す。若手が多い広島の春季キャンプで、野球に愚直な男は懐かしくも新鮮な光を放っている。

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