「もう一度、神宮のマウンドへ」。ヤクルト由規の思い (2ページ目)

  • 吉村大祐(サンケイスポーツ)●文 text by Yoshimura Daisuke
  • photo by Kyodo News

 ようやく光が差し込んだのは、2014年6月14日。イースタン・リーグで2年2カ月ぶりに実戦復帰を果たした時だ。ここで由規は最速155キロをマークするなど、1回を無安打無失点に抑えた。かつて"剛球王子"と呼ばれたストレートが蘇(よみがえ)った。由規がこの時のことをこう振り返った。

「右肩を痛めてからは、正直、もどかしい気持ちで毎日を過ごしていました。『朝起きたら、肩が良くなっていないかなぁ』とか、『ドラゴンボールが落ちてないかなぁ』とか。そんなことばかり考えていました」

 由規が言う"ドラゴンボール"とは、漫画家・鳥山明氏の大ヒット作『ドラゴンボール』(集英社刊)に登場する道具で、世界中に散らばった7個のドラゴンボールをすべて集めると、どんな願いでもひとつだけかなえてくれるというものだ。そんな架空の代物を使ってでも肩を完治させたいと思うほど、由規は追い詰められていた。

 そして実戦復帰から2カ月後の8月6日、イースタン・リーグの巨人戦で5回3安打2失点。二軍戦とはいえ、1069日ぶりに白星を挙げた。そこから一度、ペースダウンを強いられたが、4年ぶりに参加した愛媛・松山での秋季キャンプ中に行なわれた四国社会人選抜との練習試合に先発。2回を投げ、5三振を奪うなど無安打無失点。最速148キロをマークするなど、復活をアピールした。

「秋のキャンプでは、忘れかけた一軍の雰囲気を味わえました。ただ肩の不安はこれからも背負っていくものだと思っています。若い選手もたくさん出てきましたし、僕の実績はゼロだと思っていますが、今年はチームに恩返しができると思います。1年間フルに投げることは難しいかもしれませんが、チームのために頑張りたい」

 昨年末にはパワースポットとして知られる京都・伏見稲荷大社の本殿奥にある千本鳥居を訪れた。年明けは故郷の仙台市内の大崎八幡宮で初詣。おみくじは大吉だった。また2月の春季キャンプでは、3年ぶりの一軍帯同が有力視されている。

「神宮のマウンドに立った姿を想像すると、モチベーションが上がります。一軍復帰のマウンドは神宮しか想像できないんですよね」

 25歳が長いトンネルから抜けだそうとしている。2015年こそ、本拠地・神宮のマウンドに歓喜の復活を果たす日が必ず来るはずだ。

2 / 2

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る