恩師が語る。藤浪晋太郎が「勝てる投手」に生まれ変わった日

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

 藤浪自身も深い信頼を寄せる指揮官との出会いの中で順調に成長。しかし、甲子園にすんなりたどり着いたわけではなかった。

 2年春は前年の秋に続き大阪大会を制したが、夏は決勝で東大阪大柏原に敗れた。藤浪は7回途中4失点で降板し、最後はサヨナラ負け。あと一歩のところで甲子園を逃した。西谷は「あの夏は、藤浪に最後まで任せていたら勝てていたはず。僕の甘さです」と振り返ったあと、「あの頃はチームにも藤浪にも、勝ちきれない負の流れができつつあった」と言った。

 その頃、泉北ボーイズの会長が西谷にこんなことを言ってきた。「監督、いつまで(藤浪)晋太郎と心中するつもりですか? 2回は甲子園に行き損ねていますよ。僕は晋太郎を小学生の時から見ていますが、ここ一番の試合で勝ったことがない。晋太郎はええヤツやけど、勝ち運がないんです」と。この話を藤浪に伝えると、「いつも言われていました」と笑っていたというが、「勝ち切れないもどかしさを感じていたのは、誰より藤浪自身です。『もう負けたくない』『勝ちたい』という気持ちが新チームになってさらに強くなり、それが甲子園春夏連覇という結果につながっていったのでしょう」と西谷は言う。

 今年の正月明け、藤浪は大阪桐蔭のグラウンドで自主トレを行なった。軽いキャッチボール姿にも「思い切り投げたらどれだけのボールがいくのか、見たくなりました」と西谷に大きな期待を抱かせた体の成長。さらに、人気球団でプレイしているにもかかわらずマイペースを貫ける心の安定感。今年4月に21歳になる教え子の成長に、西谷は今まで以上に頼もしさを感じていた。ただ、「今年は厳しい年になるでしょう」と3年目の見通しを語った。

「当然、相手チームのマークはきつくなるし、ローテーションでぶつかる相手も厳しくなってくる。それにファンは『昨年以上にやってくれるだろう』と期待している。そうしたプレッシャーの中で結果を出すのは、本当に大変だと思います」

 そして高校時代からのライバル・大谷翔平(日本ハム)の話題を向けると、こんな答えが返ってきた。

「大谷くんの、あの絶対的な能力には勝てません。ただ、表に出さなくても、当然、負けたくない気持ちは強く持っているはずです。じゃあ、どこで自分の存在感を高めていくのかとなると、やはり勝ち星でしょうね。“勝てる投手”へのこだわりは、より強くなっているじゃないでしょうか」

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