番記者が語る。未来の「常勝オリックス」を予感させた逆転劇 (3ページ目)

  • 波佐間崇晃(オリックス・バファローズ球団映像アナンサー)●文 text by Hazama Takaaki
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

 ドラマが待っていたのは8回裏だった。一死から原が四球を選び出塁。続く安達了一はサードへのゴロアウトに倒れるも進塁打となり二死二塁。シーズン首位打者の糸井嘉男は勝負を避けられ、二死一、二塁で4番のT-岡田が打席に入った。

 この日はここまで3三振。だが、このイニングからマウンドに上がっていた谷元圭介は力みからかボール球が3つ続く。4球目、T-岡田は真ん中やや低めのボールを思い切ってスイングしてファール。2014年公式戦で、T-岡田は3ボールからは1本もヒットを放っていない。このカウントではまず「待つ」と思っていた。試合後T-岡田はこの場面を振り返り、「監督が3ボールから『打て』というサインを出してくれた。何とか結果につなげたいという気持ちで集中しました」と頬を紅潮させた。

 そして、5球目。強く乾いた音がグラウンドに響く。振り抜いた打球は当たった瞬間にそれと分かる逆転3ランホームラン。T-岡田はバットを握ったまま右手を突き上げる。そして大きく雄叫びを上げた。悔しさと重責を振り払えた瞬間だったのだろう。これまでに見たことのない彼の姿だった。耳をつんざく大歓声が球場を包む。チームが合言葉にした「さらに、ひとつになろう」が結実した瞬間だった。

 しかし、バファローズは第3戦で延長10回の末に敗れ、CSファイナルステージに進むことはできなかった。ただ、戦いを終えた森脇監督は「敗者から勝者に変わるのは、本当の悔しさを体全体で味わった時。そういう意味で十分な1年だった」と清々しい表情で振り返った。

 成長を感じとったのは監督だけではない。10月12日の試合は、バファローズ主催のゲームとしては2005年の実数発表以来最多となる36012人のファンが京セラドームに駆けつけた。「あれほど大きな歓声に包まれて野球をやったのは生まれて初めて。本当に嬉しかった」とT-岡田は目を輝かせた。バファローズ一筋9年、感慨深いものがあったのだろう。来季こそはファンが長らく待ち望んでいる歓喜の瞬間をもたらしてほしい。

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