坪井智哉「帰国後、友人が教えてくれた阪神ファンの優しさ」 (2ページ目)

  • 村瀬秀信●文 text by Murase Hidenobu
  • 甲斐啓二郎●写真 photo by Kai Keijiro

 還元する機会は早々に訪れた。10月31日、横浜DeNAベイスターズが打撃コーチに坪井智哉氏が就任することを発表した。それは、これまで何の縁もない球団からの突然のオファーだった。

「びっくりしましたよね。ホントに。高田GMは僕が日ハム時代に一緒にやっていた方で......まぁ、戦力外にされた人でもあるんですけど(笑)。その高田さんからシーズン中に『お前、来季の打撃コーチにリストアップしてるけど興味あるか?』と言われたので『野球人として候補にあげて頂けることは光栄なことです』というお返事をさせていただきました。でもそれっきり連絡もなくて、来年の仕事はどうしようかな......と考えていたところでしたから」

 かつて、自身をクビにした高田氏に請われてのコーチ就任。横浜DeNAには今季ブレイクした筒香嘉智を筆頭に、梶谷隆幸、石川雄洋、下園辰哉、松本啓二郎、関根大気と若い左バッターが多い。誰よりも自分に厳しく生きてきた坪井を知り、認めていた高田GMは、その要請の際に「優しい若手の選手が多いから厳しさを注入してくれ」という注文を出したという。

「『でも高田さん、僕がコーチになったら練習終わらないですよ』といいましたけどね(笑)。まぁ、でも実際は無理やり打て!打て!とやらせることも、口出しすることも少ないと思いますよ。そもそも僕自身、現役時代にコーチには『余計なことは言わないでくれ』ということを言っちゃうタイプでしたからね。選手ひとりひとりの性格やこれまで作り上げてきた理論もあるでしょう。僕の現役時代の打撃理論なんてクソ喰らえですよ。ただね、『好きにやらせてくれ』という人間だった僕でも、調子が悪い時、迷いのある時、助けを求めたい時はあるんです。そういうときに、わかりやすくアドバイスをできるだけでも、僕はコーチの役割は十分だと思う。そのためには、まずはひとりひとりをしっかり見ること、知ることですね。話をしながらやっていければと。選手のときとは違う変な重圧はありますよ。自分が選手ならダメなら自分で責任を取ればよかったけど、僕の言葉や行動で人の人生が左右される立場にいるわけですからね。これは大変やぞ......と覚悟を新たにしています」

 2014年11月、奄美大島での秋季キャンプに合流した坪井知哉はDeNAベイスターズの真新しいユニフォームに袖を通し、コーチとしての真剣勝負がはじまった。

 カバンの中には、野球道具。お気に入りのドリップセットは入れてこなかったそうだ。


(前編はこちら)

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