坪井智哉「帰国後、友人が教えてくれた阪神ファンの優しさ」

  • 村瀬秀信●文 text by Murase Hidenobu
  • 甲斐啓二郎●写真 photo by Kai Keijiro

12月特集 アスリート、現役続行と引退の波間 (2)

坪井智哉インタビュー(後編)

 9月11日。阪神甲子園球場、阪神×巨人戦。

 この日、引退した坪井は始球式に呼ばれ10年ぶりに甲子園へと帰ってきた。
 
「嬉しかったですよ。その反面、不安もありましたね。阪神を出て10年ですから『元阪神タイガースの坪井智哉さん』と呼び出された時、シーンとなったらどうしよう......という不安が一番でした。あの日は阪神時代には生まれていなかった子どもを連れて行ったんです。本番前に『お父さん昔は阪神の選手だったからな。オレの名前呼ばれたら、ごっつい歓声が沸くからな!』と言ってしまった。これ、静まり返ったらカッコ悪いじゃ済まない。父の威厳にも関わる。だから、本番はちょっとおっかなビックリ様子をうかがいながら歩いてたんですよ。そしたら、甲子園が大歓声で迎えてくれて......ホッとしましたよ。子どもが『トモさんすごいねー』って感激していましたからね。『そやろー』って(笑)」

来季はDeNAの打撃コーチを務めることになった来季はDeNAの打撃コーチを務めることになった

 坪井にとっては初めて見るマウンドからの景色。5万人の大観衆の声が懐かしく、些細なことにも幸せを噛み締めていた。
 
「アメリカで楽しいことがなかった反動かもしれませんが、帰国後、ちょっとしたことに物凄い幸せを感じるんです。僕が引退を発表した時にも和田(豊)監督や八木(裕)さんら先輩が新聞にコメントをしてくれたこと。元同僚や後輩もメールをくれたりね。巨人の原(辰徳)監督なんて現役時代は話したこともない雲の上の人が、僕が何をしていたのか知っていてくれて『坪井くん! キミは本当に野球が好きなんだね! そういう人材は野球界の宝だ、君の経験を還元していかなければいけないよ』って言ってもらって。日ハムの栗山(英樹)さんも、中日の谷繁(元信)さんも、DeNAの中畑(清)さんも、『お疲れ様』『辛かっただろ』って、みんな暖かい言葉をかけてくださった。それと、阪神ファンの友人が教えてくれたんですけど、阪神が勝った後に高速の高架下で選手のひとりひとりの応援歌を演奏して盛り上がっているそうなのですが、今でも僕の応援歌をやってくれるらしいです。そういう何気ない言葉がね。もう、年なのかもしれないですけど、僕の気持ちをカーっと熱くさせるというか......。正直、今はまだ自分に何ができるかわかりませんけど、ね」

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