本塁打ゼロの男・岡田幸文「だから守備は誰にも負けたくない」

  • 島村誠也●取材・文text by Shimamura Seiya
  • 織田桂子●写真 photo by Oda Keiko

 そうして、外野守備で最優先にしていることは「状況判断と正確性です」と、そのダイナミックな守備からすれば地味な回答をくれたのだった。

「ファインプレーがすべてじゃないんです。しっかりと状況判断をしてバッターランナーに次の塁を与えない。それが、いい外野守備の条件だと思っています。そして、投げるべきところにしっかり投げるという正確性。これは遠い距離だけでなく、中継にしてもカットマンに正確に投げる。バックホームもしっかりとラインに乗せる。いくら肩が強くてノーバウンドで返球してもベース上に乗らなかったらノーチャンスです。本当に基本的なことが大切なんですよ」

 驚かされたのは、あの守備をして自分の80パーセントの力でプレイをしているということだった。

「プレイ自体は100パーセントですよ。ただ、守っているときの気持ちですね。自分の気持ちの中に20パーセントの余裕を残しておくんです。そうしておかないと正しい状況判断ができなくなってしまう。何が何でも捕りに行くんだという気持ちでいると、飛び込んではいけないとこで飛び込んで相手チームに無駄な進塁をさせてしまいます。逆に状況判断ひとつで、捕れそうにない打球にも追いつくこともできるんです」

――バッターが打った瞬間に、その打球のイメージは浮かぶものですか。

「ある程度、引き出しを持ってますからね。この打者ならこのへんに飛んでいくだろう、この風向きだからこう伸びていくだろうとか。一流打者の打球は速いですし、無回転で飛んでくるのもあります。ある程度イメージしておかないと、"ぶっつけ本番"で打球が飛んできた、よし行こうじゃ間に合わない。そういうすべてにおいての状況判断が大切なんです」

――では、8月10日の背面ジャンピングキャッチもイメージはあった?

「ありましたね。低いライナーで、なおかつ風が強い日だったんで、(QVCスタジアムでは)低いライナーは伸びるというか、球足が速くなる。そういうイメージは持って守備をしていました」

――そういう意味では、あのプレイは紙一重ではなく計算通りですか。

「ボールがグラブに入ってくれて良かった(笑)。もう"頼む"という気持ちでグラブを出したんで。飛び込むときは勇気も必要ですね。失敗を恐れてはいけない」

――岡田選手の正しい状況判断とは、どこから生まれてくるのでしょうか。

「やっぱり自信じゃないですかね。ここへきたら行けるという気持ち。迷ってしまったら中途半端なプレイになってしまうんで。もちろん悔いの残るプレイはあります。昨年、一昨年とか、やっぱり一歩目を間違えたために打球に追いつけなかったり、追いつけるはずなのに追いつけなかったり。僕は難しい打球を捕ったときの喜びよりも、捕れなかった時の悔しさの方が強いですね」

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