金子千尋は国内かメジャーか。混乱を招いたFA制度の矛盾
もともとは2008年、FA権取得まで7年という期間短縮を主張した選手会に対し、NPBは、国内FA権取得期間は8年に短縮、海外FA期間は9年で据え置きという提案を出した。その際、先の宮西のケースに該当する2007年のドラフト以降に入団した大学、社会人出身者は7年、という条件がついたことで、 選手会とNPBは合意し、今の制度に改正された。ここから、海外FAと国内FAのタイムラグは生じたのである。
しかし過去に遡(さかのぼ)れば、以下ふたつの前例から、今回の金子の件は想定され、対処しておかなければならなかったはずだ。
1つは、大塚晶文のケースである。
大塚は2002年のオフ、近鉄からポスティングシステムでのメジャー移籍を目指したが入札がなく、その後、中日へトレードされた。中日は1年後、ポスティングシステムによるメジャー挑戦を容認、大塚は応札したパドレスへ移籍した。メジャー移籍を前提にしたと思われる、いわゆる“腰掛け”の1年契約をした前例はすでにあったのだ。
もう1つは、藤井秀悟のケースだ。
藤井は2009年のオフ、国内FA権を初めて行使した選手として、当時、在籍していた日本ハムから他球団への移籍を目指した。しかし獲得に乗り出す球団はなく、藤井は宙ぶらりんの状態となった。日本ハムも再契約を拒み、獲得したいという球団もなく、しかも藤井が有するのは国内FA権だけだとすると、メジャーどころか、韓国、台湾といった他の国のプロ野球の球団とも交渉できなくなる。そんな状況に藤井が追い詰められたとき、手を差し伸べたのが巨人だった。真偽のほどは定かではないが、日本のトッププレイヤーの相次ぐメジャー流出を嘆き、海外FAの9年据え置きを強硬に主張したのが巨人だったからではないか、という話を耳にしたことがある。この時点で、国内FAと海外FAのタイムラグが存在していることの矛盾を学習すべきだった。
もはや、選手のFA権を歪な制度で縛(しば)れる時代ではない。
NPBとMLBのマーケット規模にこれほどの差が生まれている以上、MLBから高い評価を受けた選手をNPBが縛ることはもはや難しくなっている。巨人だって例外ではない。そういう時流の変化に制度がついていけず、置いてきぼりにされているのだ。今回の金子のケースを待つまでもなく、国内FAだの海外FAだの、そんな陳腐な発想が自分たちのクビを締めているのだということに、NPBは一刻も早く気づくべきだと思う。
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