金子千尋は国内かメジャーか。混乱を招いたFA制度の矛盾

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

 1つ目は、オリックスを除く国内の11球団、たとえばソフトバンクや中日から出ることが予想される、『来年限りの1年契約と来オフのポスティングを確約する』条件。

 2つ目は、オリックスが出す可能性の高い『複数年契約』という条件。これは来オフ以降、金子をポスティングにかける権利をオリックスが持ち続けることも意味する。

 そして3つ目が、ポスティングシステムによる譲渡金を受け入れた『メジャー球団が提示する複数年契約』の条件。

 このオフの金子だからこそ提示されるであろう、この3つの破格の契約条件を並べて、今後の野球人生を考える。それは、これまでの金子の実績に与えられた、選手としての権利を行使してのことなのだから、何の問題もない。

 じつは、金子にもリスクはある。

 1つ目の条件を受け入れた場合、金子は来年、異なる環境の中でこの2年に近い結果を残さなければならない。年齢をひとつ重ねた来オフ、メジャーからの高額入札があるかどうかもわからない。そんな中で、選手にとっての"長すぎる"1年を過ごすことは、決して楽な道のりではない。

 2つ目の条件を受け入れた場合、もっとも旬な時期にメジャーで投げることを諦めなければならなくなる。今回、国内FA権を行使したことによって、海外FA権を取得できるのは4年後。オリックスと複数年契約を交わすということは、来オフ以降、オリックスがポスティングにかける権利を持ち続けることになるが、本来なら海外FA権を取得するはずの選手に多額の譲渡金を払おうという球団は激減する危険性がある。

 3つ目の条件にしても、このオフ、オリックスの希望する譲渡金が満額の2000万ドル(約23億円)だった場合、応じる球団がいくつあるか、不透明な状況だ。その金額が相場より高額だった場合は、金子の年俸や契約年数に影響を及ぼすことも考えられ、代理人サイドから今年の契約は見送るべきだというサジェスチョンがあったとしても不思議ではない。来年、海外FA権を取得して交渉にあたれば、そうしたマイナス面はかなり軽減されたはずだ。

 ただし、この件に関しては見落としてはいけないポイントがある。

 そもそも、なぜ国内FAが8年(2007年以降のドラフトで指名されて入団した大学、社会人出身者は7年、日本ハムの宮西尚生がこのオフ、初めて7年で国内FA権を取得した)で、海外FAが9年と、1年のタイムラグが存在しているのだろう。海外の球団を選べない国内FAなど、本来のフリーエージェントではないのに、そんな歪(いびつ)な制度がまかり通っている現実に目を向けるべきだと思うのだ。

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