もうひとりの二刀流革命児。雄平の飛躍を支えた「技」

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

 それでも雄平は逆方向への打球にこだわった。それがプロの、一軍のバッターとして雄平を支える技術だと信じていたからだ。

「逆方向に打とうとすれば、それだけボールを長く見られます。だから、難しいんですけど、引っ張りに行くより率も残りやすいはずだと思いました。もちろん、手応えなんてずっとつかめてないです。今もそうです。ただ、ピッチャーに嫌がられるには、狙いを定めたら、そのコースは打てるようなバッターにならないといけないなと思っていました」

 そんな雄平が、1本のホームランをきっかけに、逆方向への打球に微かな自信をつかむ。それは、今年の5月5日、神宮でのタイガース戦で打った金田和之からのレフトへのホームランだった。

「あのホームランは、アウトコースへシュート気味に逃げるボールだったんですけど、それをうまく打てたなと思います。シュートってファールになりやすいんですけど、あの時はうまくタイミングが合った。ちゃんとパーンと打てました。逆方向へのホームランは、左手のタイミングが大事なんです。左手で押すタイミング……当たった瞬間、ボールに対してバットをグッと押す。大谷投手から打ったホームランもそうでしたけど、このタイミングが合うと、逆方向へも強い打球が飛 びます。これがちょっとでも遅いとファールになるし、早過ぎると引っかけちゃう。そのタイミングがうまく合った時、左へ強い打球が打てるのかなと思いました」

 ピッチャーとしてプロで1勝以上を挙げた選手の中で、バッターとしてシーズン20本のホームランを打ったのは、球史を紐解いても4人しかいない。しかもその顔ぶれときたら、レジェンドばかりだ。川上哲治(背番号16はジャイアンツの永久欠番)、西沢道夫(背番号15はドラゴンズの永久欠番)、藤村冨美男(背番号10はタイガースの永久欠番)、そして森下重好(近鉄パールスの初代4番打者)と、いずれも大正生まれの名選手が揃う。プロで勝った経験を持つピッチャーが、野手に転向してバッターとして大成するのがいかに難しいかということを、改めて痛感させられる。

 そんな中、プロ通算18勝を挙げている雄平は、今シーズン、打率.316、ホームラン23本、90打点を記録した。今シーズンの最終戦となった10月7日のベイスターズ戦でも、雄平は久保康友からショートの頭、左中間へ、球足の速い強い打球を打ってツーベースヒットとした。まさに、2014年の雄平、その集大成ともいえるような痛烈な一打だった。大谷がベーブ・ルースの同一シーズンの“10勝、10本”を96年ぶりに達成した今年、雄平は同一プレイヤーの“1勝、20本”を64年ぶりに成し遂げた。雄平もまた、“二刀流”の歴史を塗り替えた、革命的なプレイヤーだったのである。

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