驚きと喜び。突然、日本シリーズが甲子園にやって来た (6ページ目)

  • 島村誠也●文 text by Shimamura Seiya
  • photo by Nikkan sports

 試合が始まると、尼崎中央商店街はファンやテレビカメラが入り乱れての大騒ぎ。私は千船駅の谷さんの立ち飲みの店に戻ることにした。谷さんは甲子園へ行っているが、ご子息がカウンターに立っているのだ。ご子息は、幼少時には谷さんに連れられてタイガースの試合を甲子園でよく見るも、ある時から気持ちが離れていったそうだ。

「1985年のタイガース優勝騒ぎの時に、学校でも六甲おろしをみんなで歌ってましてね。なんかそれを見て、なんか気持ちが引いてしまったんです。オレは前から甲子園に行ってんねんでと」

 さて、店に入るとFM放送が流れていた(笑)。しかも、店の雰囲気にはなじまない音楽。3人のお客さんは「日本シリーズを聞きたい」とも言わず、黙々と飲んでいる。

「去年も今年も甲子園に行ってないですね。一昨年は行ったかな。あの父にして、この子あり(笑)。でも、お客さんがタイガースの話すればフツーに合わせますよ。でもこの前、言われたんですよ。『自分、野球に興味ないやろ』って(笑)」

「この辺に住んでいればタイガースと関わってあたり前やろ」。この言葉を思い出す。結局は谷さんのご子息もタイガースと関わっているのではないか。

 そうしてお勘定をして店を出ると、甲子園球場の大歓声が聞こえてきた。まさかここまで? しかし冷静に考えれば、それははす向かいのフラワーショップから聞こえてくるラジオの実況中継なのだった。試合はタイガースがリードをしているようだった。千船駅のホームに人かげは数人で、暗くひっそりとしている。しかし、あと1時間もすれば、阪神電車は甲子園から喜びに満ちたタイガースファンをたくさん乗せて走りまわるのである。

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