驚きと喜び。突然、日本シリーズが甲子園にやって来た (5ページ目)

  • 島村誠也●文 text by Shimamura Seiya
  • photo by Nikkan sports

 宮城さんは誇らしげに話すとビールを飲んだ。

「今年はまさか日本シリーズ行くとは思うてなかったから。ほんと奇跡やで。でも、痛い出費や(笑)。チケット代にビール代……。ファン感謝デーで予定していた福袋代とか削らなあきません」

 宮城さんと連れの男性は、今年、甲子園球場の試合をほとんど欠かすことがなかったという。

「仕事が終ってから行くので、(ジェット)風船に間に合えばいいなということが多かったですね。9回裏二死からのサヨナラ勝ちの瞬間に滑り込んだこともあります(笑)」(宮城さん)

「そう、滞在時間15分やったな」(男性)

―― そこまでギリギリの時間でも行くのですか。

「甲子園に行くと、仕事でのストレス発散になるんです。職場ではアホやアホや言われて。私の年席の周りには年上の方たちが多くて、話もよく聞いてくれるし。でも相手がオリックスやったらもっと盛り上がったのにな。だって全部行けんねんで。そうなったらもっと痛い出費になるけど」

 宮城さんはそう笑うと「じゃ行ってきます。タイガース勝ったら戻ってくるで」と言い残して甲子園へ向かったのだった。

「なんか緊張感ないなー。巨人にまさかの4連勝でガタガタ言わせたったけど、7ゲーム差つけられてたからなー。あれが1ゲーム差くらいなら満足度も違うだろうけど」

 寅吉のご主人がぼやいた。テレビは日本シリーズの開幕セレモニーを映し出している。この日、話を聞いた人たちが、あの中にいるのだと思うと不思議な気分になる。

「スタンドの上の方はかなり寒いと思うよ。土日なんやからデーゲームでやればいいのに。それやったら、うちも助かる(笑)。試合が終ってからみんなワーッと飲みにくる。夜の試合だと、終電のことを考えるとなかなか来られへんから」

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