2014.10.27

驚きと喜び。突然、日本シリーズが甲子園にやって来た

  • 島村誠也●文 text by Shimamura Seiya
  • photo by Nikkan sports

 8年前、寺井さんは古くからのタイガースファンとして、その複雑な心境を話してくれた。その時点で、タイガースはどうやら黄金期に入った兆しがあり、その強さに馴染めないとのことだった。

「弱い時から見とったから。強いのは自分の好きやった阪神とは違うかな。前はヒット3本打っても点が入らない。そんなチームでしたが、今はチャンスで『あー、打ってしもうた』って(苦笑)。弱い時は『今年こそ優勝』とお題目みたいに言ってましたけど、毎年優勝やったら飽きる。夢は夢のままがいい。人間、ほとんど成功しないですやん。それとタイガースがオーバーラップしていたんです」

 寺井さんは今、タイガースファンとしてまた違った複雑な心境だという。

「あの頃と立場が変わりましてね。今はタイガースと商店街を盛り上げようと……」

 そういって名刺を差し出した。肩書きには、尼崎中央3丁目商店街振興組合・理事長とあった。

「ひとりのファンとしてタイガースが勝った負けたで喜べなくなってしまいました(苦笑)。春先は、CSは間違いないと思っとったんで、商店街では毎年、夏にイベントをするのですが、それを秋にしようと。それで動き始めたらチームが失速して下手したら4位もあるぞと。その時点でこれはアカンな、気持ちを来年に切り替えて、ドラフトで誰とって、次期監督は誰や、など考えてたら今日の結果ですから(笑)」

 寺井さんは振興組合の理事長として、優勝マジックボードの製作準備など判断の見極めが難しく何度も痛い目にあったそうだ。

「優勝マジックのボードにしても、今日勝ったから明日作りましょうとはいかない。去年まで4回CSに出てすべてファーストステージで敗退。この繰り返しでしたから。しかもCSに進出した以上はファイナルステージ用のマジックボードも製作しとかなあかん。勝った負けたでテンションが上がったり下がったり。もうそういうことをすればするほど負けるんで、今年は振興組合としてダメージのないように大人しくポップだけにしたんです。そうしたら、まさかまさかの連勝。で、勝てば勝ったで『なんや、勝ったのに何の準備もできてへんのか』と苦情がきたり……(苦笑)」

 日本シリーズ開幕まで2時間。杭瀬駅前にある「寅吉」ののれんをくぐると「これから甲子園だな」と明らかにわかるカップルのお客さんがいた。ふたりの主導権は女性の宮城さんにあるように見えた。

―― 今日のチケットはどうやって手に入れたのですか。

「ウチら年席(シーズンシート)なんで。2009年に年席をはじめて持って、好きやった矢野(燿大)さんの引退試合を確実に見るためだったんですけど、それからずっとです。金本(知憲)さん、桧山(進次郎)さんの引退試合も見られたし、今年はやっと日本シリーズです」