驚きと喜び。突然、日本シリーズが甲子園にやって来た (3ページ目)

  • 島村誠也●文 text by Shimamura Seiya
  • photo by Nikkan sports

「来年も優勝は巨人でしょう。私は素人ですけど、今の首脳陣はええことないよ。広島の野村(謙二郎)監督がやめて、和田(豊)監督が残った。これ反対とちゃうか、と思うんやけど。本来は総入れ替えちゃうか。CSで偶然勝ったから残ってしまうけど。そういう意味では和田さんをはじめ、コーチ陣の運が強かったんかなあ」

 店の奥から夫人が戻ってきて、嬉しそうな顔でひとつのリュックを見せてくれる。それはタイガースのキャップ型をした、可愛らしいリュックバッグだった。

「これを肩からぶらさげて九州に行くの。大阪からぶら下げるのは恥ずかしいから、福岡ドームに行くときにぶら下げるの。旅の恥はかき捨て(笑)」(夫人)

 甲子園方面へ走る阪神電車の中は静まり返っていて、日本シリーズの気配はまだ感じられない。車窓からは少年野球の試合が見えた。大物(だいもつ)駅で降りて、小田南公園へ行く。グラウンドから聞こえてくる少年たちのかん高い声が、なぜか郷愁をそそる。折りたたみ椅子に座って試合を見ていたふたりの男性に声をかけた。試合で躍動している子どもたちのユニフォームとは違うので、ふたりは他のチームの指導者のようだった。

「もちろん阪神ファンです。子どもたちも阪神ファンが多くて、今日も朝からどっちが勝つか話題にしていました。巨人ファンもいて、CSで阪神が勝った時は、その子の前でみんなでバンザイして(笑)。日本シリーズも巨人に4連勝した勢いで阪神ですよ」

 杭瀬(くいせ)クーガーズの小村コーチはそう言って、途中で席をたったもうひとりの男性のいなくなった椅子を目にやり「今のが監督なんですけど、巨人ファンなんですよ」と笑う。クーガーズは小学校5、6年生を中心としたチームで、今日の大会では残念ながら敗退。小村コーチは、今日から始まる日本シリーズを子どもたちに見るように伝えている。タイガースが日本一になれば「メシに連れてく」と約束したそうだ。

「今は試合が多くて、子どもたちは試合をするのが当然の環境になっているんです。今日がどの大会かもわからないくらいなので、試合に負けても『次があるさ』と泣くことがない。だからプレイも雑になってしまう。子どもたちには、負けたら終りという短期決戦の厳しさを知ってほしい。それにはCSや日本シリーズを見ることがいいんですよ。プロの選手たちが一球、一球をどうプレイしているのか。テレビ越しでも選手の必死さも伝わってきますし。どの選手が何イニングのときにどんなプレイをしたか、あとで聞くぞと。そうすれば子どもたちは一生懸命試合を見ますよ」

 再び尼崎に戻り、冒頭の柴田商店に入って少し驚いた。8年前よりもタイガース色が強く、寺井さんに案内されると店の奥には「倉庫などをつぶして造りました」と、スポーツバーと、イベントスペースがあったからである。今日も試合を訪れるファンやマスコミ関係者で混雑が予想されるといった。

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