22歳の挑戦。山田哲人、シーズン193安打の舞台裏 (4ページ目)

  • 島村誠也●文 text by Shimamura Seiya
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

 そんな中、最多安打争いは思わぬ展開を迎える。広島の菊池涼介が恐ろしいほどのペースでヒットを量産しはじめたのだ。圧巻は9月28日からのヤクルト3連戦。28日に3安打の猛打賞を記録すると、29日は4安打を放ち、山田と並んだ。そして30日の試合で2安打すると、ついに単独トップに躍り出たのである。

 ちょうどその頃、山田に話を聞いた。残り試合こそヤクルトが広島よりも2試合多かったが、勢いを考えれば追い込まれているのは当然だった。

―― 菊池選手や大島選手のことは意識していますか?

「すごく意識しています。めちゃめちゃしますね(笑)。意識しはじめたのは、最多安打のタイトルが見てきた9月終盤くらいからですね。ふたりの結果はチェックしています。ふたりが打てば、僕も頑張らなきゃと思うし、僕が打てなくて、ふたりも打っていないとラッキーだと思いますし。やっぱり勝負の世界なんで、ここまで来たら勝ちたいですから」

―― 菊池選手には9月28日からの3連戦で9本も打たれました。あれだけ目の前で打たれると、自分の打撃に影響することは?

「多少、力は入りました。でも、正直言うと、別にタイトルは獲れなくてもいいんです。今の数字に満足しているんで(笑)。結果として獲れたらいいな、という感じでやっています。こうした状況にいられるだけで幸せなことですし、こうやって壁にぶち当たっていますけど、それは贅沢な悩みだと思ってやっています」

 杉村コーチも同じようなことを言っていた。いつもは歯切れのいいコメントをするのだが、いつになく弱気になっているように感じられた。

「今は本当にしんどいと思いますよ。山田は実質1年目で、大島も菊池もフルシーズンを経験している。そういう相手に立ち向かっているわけですから、幸せな挑戦ですよ。タイトルが獲れれば万々歳ですが、もし獲れなくても、この経験は山田の野球人生に大きく役立ちます。でも、何としても獲らせたいよね。アイツ、普段は無口だけど、負けん気は人一倍強い。負けたら悔しさが強く残るだろうね。獲れなかったらコーチとして失格ですよ。もう残り試合も少ないので、オレにできることは激励することかないんだけど」

 そして10月2日の巨人戦。山田は第1打席で左中間を破る二塁打を放つなど、4打数3安打。シーズン通算188本として、この日、試合がなかった菊池に2本差をつけて再びトップに返り咲いたのである。試合後、報道陣に囲まれた山田は、口調こそ静かだったが、少し気持ちが高ぶっているように見えた。

「今日はヒット1本を目指してやっていたんですけど、結果として3本打てて、普通に嬉しいです。ここまで来たんで最多安打は獲りたいですし、毎打席ヒットを狙って打ちにいきたい。残り2試合であと3本打てるように頑張りたい。どうしても記録のことは意識してしまうと思うけど、プレッシャーを感じながら打席に立ちたいと思います」

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