22歳の挑戦。山田哲人、シーズン193安打の舞台裏 (3ページ目)

  • 島村誠也●文 text by Shimamura Seiya
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

 山田自身、この“180本”という数字をどのようにとらえていたのだろうか。

「正直、無理ではないと思っていました。180本という数字の前に、コーチからは『まず週に7本打つところからはじめよう』と言われました。週に7本打てば、月に30本近くなり、それを6カ月続ければ180本になるだろう、と。そう考えれば現実的な数字に見えたので。だから、その7本を1週間、1週間……とクリアしていった感じですね」

 杉村コーチはシーズン中も次々と新しい目標を山田に課した。6月に「オールスターに出ろ!」と言えば、初出場を果たし、そのオールスターで「賞金を獲ってこい!」と言えば、ホームランを狙い打って100万円を獲得。また、体力が落ちてくる8月に「月間MVPを狙え」と言えば、本当に実現。杉村コーチが立てた目標を次々とクリアしていった。

―― 目標をクリアするごとに、それが自信につながっていった感じですか?

「いえ、それはないです。自信は今もありません。勝負の世界ですし、その時にたまたま打てただけなんで。次にまた打てるかとなると、そう簡単にはいかないと思うんで……」

 山田は春から夏、そして秋になっても「自信がない」と言い続けたが、ついに大きな目標であった180本をクリア。そして、また新たな目標が生まれた。

「ここまで来たんだから、まずは1950年に阪神の藤村冨美男さんが記録した191安打という日本人右打者の年間最多安打記録を狙おうじゃないかと。そうなれば、年間200安打も見えてくるし、個人タイトルだって狙える。もちろん、簡単じゃないとわかっていたけど、8月が終わった頃は、3つともいける感じだったよね」(杉村コーチ)

 しかし9月に入ると、明らかに山田の調子が落ちてきた。9月9日から15日までの7試合で31打数4安打。8月15日の時点で3割4分2厘あった打率は3割2分3厘まで下降した。

「迷いなのか、焦りなのか、疲れなのか。それとも相手のマークが厳しくなっているのか。簡単にストライクを取られて追い込まれてしまっている。フライアウトが多いのが気になった。しっかり打ちたいという意識が強すぎたのかな。山田の場合は、ヒットの延長がホームランになるタイプで、フライを上げる時は調子が良くない。もっとシンプルに、バットの芯に当てて強いゴロを打てば、かなりの確率でヒットになるんだけどね。なにより、いつもの積極性が失われているよね」(杉村コーチ)

 自身が初めて経験するフルシーズンについて、山田に「疲れはあるか」と聞くと、こんな答えが返ってきた。

「本当に疲れています。特に、9月に入ってからは1日がめちゃめちゃ長いっす。はじめて1年間一軍で過ごしたのですが、こんなにきついとは思っていなかった。これがプロなんだと実感しています。体の疲れもそうですが、気持ちの部分が結構きつくて……。打てる日と打てない日があるじゃないですか。9月は結果も出なかったですし……いろいろと考えてしまって。精神的に疲れています(笑)」

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