下剋上へ手応え。選手起用に見る日本ハムのチーム戦略 (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Nikkan sports

 実際、近藤がサードを守るきっかけとなったのは、5月1日の小谷野のケガだった。しかもケガをした翌日、すかさず近藤を使うという誰もが仰天する采配は、もちろん思いつきでできることではない。サードを守るのは中学校以来という近藤ではあるが、スカウト陣は、横浜高校へ入学した直後、ショートを守っていた近藤を知っていた。栗山監督以下、一、二軍の首脳陣は、キャッチャーとしての適性を見極めながら、バッティングを生かすことを最優先に考え、いろんな起用法をイメージしてきた。だから、と言って栗山監督はこう続ける。

「僕も、いろんなことを感じないといけない。野球の神様に試されているんだと思うんです。ちゃんとイメージしてるのか、ちゃんと考えているのか、ちゃんと準備しているのかって……今日は水をあげなきゃ、今日は太陽に当てなきゃ。今のファイターズはそういうチームです。だから3年後をイメージしていた選手たちが、ようやく成長し始めた。そういう成長のプラスアルファというのも、日本一になるための条件だと思うんです」

 近藤は第3戦、稲葉の同点打につなぐヒットをレフト前に落としている。稲葉が「どん詰まった当たりでもヒットにする、そういう気持ちを見せてもらった」というほどの、気持ちの入った一打。守備でもエラーをしでかしたりもしたが、余りあるいい動きを再三にわたって披露していた。栗山監督ふうに言えば、「シビれる試合でゴロをひとつアウトにするのは、千本のノックを受けるよりも上手くなる」ということか。

 2年前のファイナルステージでは、2位のライオンズを破った3位のホークスを、1位として迎え撃った。その時のホークスのことを、「待ってて、本当に怖かった」と栗山監督は振り返る。そして今年、おそらくは待つ身にとって怖いファイターズは、3位からファーストステージを突破し、1位のホークスに挑む。3位チームのファーストステージ突破はこれで5年連続、8度のうち6度目ではあるが、ファイナルステージも勝ち上がった3位のチームは、2010年のマリーンズだけ。だから試合後の栗山監督は、激戦の興奮を胸の奥にしまい込み、努めて冷静にこう話した。

「強いホークスにもう一回、裸でね、こちらもガムシャラにぶつかれるわけだから。短期決戦はシーズン中とは野球が違うので、選手たちには臆することなく、最後まで行くつもりで戦ってほしいと思います」

 パ・リーグの“ラスボス”を倒すために、栗山監督はあれこれと思いを巡らせているはずだ。果たしてどんなアイテムを繰り出してくるのか。ファイターズが下剋上へ、福岡でのファイナルステージに挑む。

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