あれから20年。当事者たちが語る「10・8」の真実 (5ページ目)

  • 島村誠也●文 text by Shimamura Seiya
  • photo by Nikkan sports

 もちろん“10・8”は、今の現役選手たちの記憶にも深く刻まれている。あの当時、東海大相模高の1年生だった森野将彦(中日)は次のように語る。

「家のテレビで見ていました。どっちのファンでもなかったけど、『プロ野球が凄いことになっている。勝った方が優勝なんだ』ということは知っていました」

―― 高校の先輩である原辰徳さんも先発出場していました。

「原さんが(東海大)相模出身ということは知っていますけど……そこまで思い入れはね。でも、あの試合で巨人は凄いなというイメージは残っています。槙原さん、斎藤さん、桑田さんの先発三本柱が投げたでしょ。それに、今のGM(落合博満)がホームランを打った。あの試合を見て、巨人は他とは違うんだなと」

 今回、槙原氏に話をうかがったのは10月3日で、その前日にソフトバンクとオリックスが優勝をかけて戦っていた。ソフトバンクはこの試合がシーズン最終戦で、勝てば優勝。逆に、オリックスが勝てば残り2試合でマジック1となり、逆転優勝の可能性が出てくるという試合だった。

「この試合を見ていて “10・8”を思い出したよね。今は負けてもCSがあるし、当時と少し状況が違っているけど、秋山(幸二)監督が優勝して号泣している姿を見ると、相当なプレッシャーがあったんだろうなと。“10・8”の時も、落合さんが泣いているのが印象的でした。この人でも泣くんだと。落合さんでも相当なプレッシャーを感じていたんだなと思いましたね」

 そして槙原氏が興味深いことを教えてくれた。実は原監督もソフトバンクとオリックスの試合をみて、“10・8”のことを思い出していたという。

「原さんが言うんですよ。『オリックスの選手は硬くなってしまって、あの時の中日の選手と一緒だったな。最後に追い上げたんだから、これは儲けものと思って、思い切りやるだろうと見ていたら、やれないもんだなぁ。あの時も、追い込まれたオレたちが硬くなるのはわかるけど、何で中日の選手が硬くなるのかと思ったよ』って。僕も、オリックスの選手を見ていて、中日もあんな感じだったんだろうなと思いました。勢いはあるはずなのに、いざ試合になったら体が動かないんですから」

 20年経った今も“10・8”は選手たちの心に焼き付いている。そして最後に仁村氏はこう言った。

「結局は、長嶋さんにやられちゃったんだよね。名ドラマの名監督を長嶋さんに演じられてしまった。僕たちは名脇役だったよね。ウチは今中で負けたら仕方がないという感じだったから……。でも、本当に勝ちたいと思うのなら、奇襲を仕掛けてもよかったのかなと。長嶋さんはそういう大胆なことができるんですよ」

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